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要約・言い換え技法の極意:相談者の共感を得る技術
2025年08月08日

「つまり〜ということですね」と要約したのに、相談者が微妙な反応をする。実は、単なる復唱では相談者の心に響きません。
真の要約・言い換え技法とは、相談者の混乱した思考を整理し、新たな気づきへと導く芸術です。相談者が思わず「そうそう、それです!」と身を乗り出すような技術を身につけましょう。
単なる復唱と気づきを促す要約の違い
×復唱レベル(機械的反復)
相談者: 「仕事がつまらなくて、でも安定しているし、でも本当はやりたいことがあって、でも家族のことを考えると…」
復唱例: 「仕事がつまらないけれど、安定していて、やりたいことがあるけれど家族のことを考えてしまう、ということですね」
→相談者の反応:「まあ、そうですが…」(物足りなさが残る)
○構造化要約レベル(気づき促進)
構造化要約例: 「今お話しを伺うと、『現在の安定』と『本当にやりたいこと』の間で揺れ動いていらして、その中心には『家族への責任感』という大切な価値観がおありになるように感じました」
→相談者の反応:「そうです!まさにそれで悩んでいるんです!」(深い納得感)
感情と内容の二重構造要約法
レイヤー1:事実・内容の整理
情報整理の手順
1.主要な要素を抽出: キーワードを3-5個に絞る
2.時系列を整理: 過去→現在→未来の流れを明確化
3.関係性を可視化: 要素間の対立・相互作用を把握
レイヤー2:感情・価値観の言語化
感情構造の読み取り
・表出感情: 相談者が口にした感情
・潜在感情: 言葉の奥にある真の感情
・潜在感情: 言葉の奥にある真の感情
実践例:転職を迷うAさん(32歳・営業職)
相談者の発言: 「今の会社は人間関係も良くて給料もそこそこもらっているんですけど、毎日同じことの繰り返しで、これでいいのかなって。でも転職って失敗したらどうしようって思うし、家のローンもあるし…でも、もっとクリエイティブな仕事がしたいという気持ちもあって」
二重構造要約の実例
「Aさんの中で、『現在の安定した環境』への感謝の気持ちと『もっと創造的な仕事への憧れ』が共存していらっしゃいますね。そして、その両方を大切にしたいからこそ、『家族への責任』という軸で悩んでいらっしゃる。つまり、Aさんにとって転職は『冒険』ではなく『責任ある選択』として捉えていらっしゃるのかもしれません」
→Aさんの反応:「そうなんです!まさに責任ある選択として考えたいんです!」
メタファー(比喩)活用法
相談者の世界観に合わせた比喩選択
職業別メタファー例
・エンジニア系: 「プログラムのバグ修正」「システムのアップデート」
・教育関係: 「新しい教材の導入」「生徒の成長段階」
・営業職: 「顧客との関係構築」「商品のポジショニング」
効果的なメタファーの作り方
4ステップメタファー作成法
1.相談者の関心領域を把握: 趣味、専門分野、経験を聞き取り
2.抽象的な概念を特定: 悩みの本質を一言で表現
3.具体的イメージを重ね合わせ: 関心領域の具体例と照合
4.共感確認: 「こんなイメージでしょうか?」と確認
メタファー活用実例
相談者: 園芸が趣味の40代女性、キャリアチェンジを検討
従来の要約: 「新しい分野への挑戦に不安を感じていらっしゃるんですね」
メタファー要約: 「今のお気持ちは、長年手入れしてきた庭に新しい種をまくようなもので、『育つかどうか分からない』不安と『きれいな花が咲くかもしれない』期待が混在している状態でしょうか」
→相談者:「まさにそう!新しい種をまく気持ちです!」
信頼関係を築く要約のタイミング
黄金のタイミング3選
1. 混乱の整理タイミング 相談者が複数の話題を行き来している時: 「少し整理させていただくと…」
2. 感情が動いた直後 相談者の表情や声のトーンが変わった瞬間: 「今、何か大切なことをおっしゃったような気がします」
3. 話の区切り時 一つのテーマが終わって次に移る時: 「ここまでのお話で感じることは…」
信頼関係構築の成功事例
ケース:混乱状態から明確化へ
背景: 転職エージェントから複数の求人を紹介され、どれを選ぶべきか分からず混乱しているBさん(28歳・事務職)
【相談者の状況】
・15分間、求人の詳細を断片的に説明
・給与、勤務地、業務内容が入り乱れた話
・「もう何が何だか分からなくて…」と困惑
カウンセラーの構造化要約: 「Bさんがおっしゃった求人を整理させていただくと、『高給与だが転勤リスクがあるA社』『給与は普通だが安定性の高いB社』『やりがいがありそうだが未経験領域のC社』の3つですね。そして、Bさんの迷いの本質は『お金』『安定』『成長』のどれを優先するかということでしょうか」
Bさんの反応と変化: 「そうです!まさにその3つで悩んでいました。整理していただいて、すごく分かりやすくなりました。これで冷静に考えられそうです」
3週間後の報告: 「あの時の整理のおかげで、自分の優先順位が明確になりました。最終的にB社に決めましたが、納得のいく選択ができました」
失敗しない要約・言い換えの注意点
よくあるNG例
1. 情報の追加・解釈の付加
NG:「つまり、もっと自信を持つべきだということですね」
OK:「自信について何か感じることがおありですか?」
2. カウンセラーの価値観の投影
NG:「安定より挑戦が大切だと思っていらっしゃるんですね」
OK:「安定と挑戦について、どのようにお考えですか?」
3. 感情の軽視・事実偏重
NG:「A社とB社で迷っているということですね」
OK:「A社とB社で迷っていらして、その迷いにはどんな気持ちが含まれていますか?」
実践練習法
日常でのトレーニング
1.家族・友人との会話で練習: 相手の話を構造化して返す
2.ニュース要約: 複雑なニュースを感情と事実に分けて整理
3.ドラマ・映画のセリフ分析: 登場人物の真意を要約で表現
セルフチェックポイント
□相談者が「そうです!」と反応したか
□新たな気づきや整理が生まれたか
□相談者の表情が明るくなったか
□より深い話が出てくるようになったか
まとめ
要約・言い換えは、単なるテクニックではなく、相談者の心に寄り添い、混乱から明確さへと導く技術です。
また、内容によって感情的になってしまう場合にも、クールダウンして問題の本質に話しを戻すきっかけを作る事もできます。
適切なタイミングで要約を入れることで、より質の高いキャリアコンサルティングが実現できるはずです。