カスハラ対策が義務化:企業と支援者に求められる取り組み
2026年01月26日
「お客様からの理不尽なクレームで夜も眠れない」「また明日も同じ顧客対応があると思うと職場に行くのが怖い」──こうした声が、接客業に従事する方から頻繁に聞かれるようになりました。
カスタマーハラスメント(カスハラ)は、接客サービス業の従業員の約75%が経験しているという深刻な職場問題です。被害を受けた従業員の多くが強いストレス、不安感、自己肯定感の低下を訴えており、中には離職や転職を検討するケースも少なくありません。
この問題は、従業員個人の問題ではなく、企業全体で取り組むべき重要な経営課題となっています。
目次
法制化の動きと企業に求められる対応
2025年4月に東京都でカスハラ防止条例が施行され、全国でも労働施策総合推進法の改正により、2026年10月から企業のカスハラ対策が義務化される予定です。
企業に求められる具体的対応
法制化により、企業には以下の対応が義務付けられます。
| 対応項目 | 具体的内容 |
|---|---|
| 方針の明確化 | カスハラの定義と禁止方針の策定・周知 |
| 相談体制の整備 | 専門相談窓口の設置と担当者の配置 |
| 対応の標準化 | 対応マニュアルの作成と従業員への周知 |
| 教育と啓発 | 定期的な研修実施と意識向上施策 |
この法制化により、企業は従業員の心理的安全性確保への責任を明確に負うことになります。
人事・労務担当者にとっては、具体的な体制構築が急務となっています。
カスハラが従業員に与える心理的影響
カスハラの深刻さは、その心理的影響の大きさにあります。被害を受けた従業員には、以下のような反応が見られます。
即時的な心理的反応
- 感情の混乱:怒り、悲しみ、困惑が入り混じった状態
- 自責感の増大:「自分の対応が悪かったのでは」という過度な自己批判
- 無力感:理不尽な状況への対処ができないという絶望感
- 警戒心の亢進:顧客対応への恐怖と回避傾向
長期的な影響
継続的なカスハラ体験は、より深刻な影響をもたらします。
職業アイデンティティの揺らぎ
「接客が向いていない」「この仕事は自分には無理」といった職業的自信の喪失が起こり、これまで培ってきたスキルや経験への疑念が生まれます。
対人関係への影響*
職場での人間関係にも波及し、「上司や同僚に理解してもらえない」という孤立感を生み出すことがあります。
身体症状の出現
心理的ストレスが身体症状として現れることも多く、頭痛、不眠、食欲不振、動悸などが報告されています。
キャリアコンサルタントができる支援
カスハラ被害者への支援には、専門的な知識とスキルが求められます。
1. 安全な環境での傾聴
まず重要なのは、心理的安全性の確保です。被害者の体験を否定せず、感情を受け止める姿勢が必要です。
「大変でしたね」「よく頑張られましたね」といった共感的な言葉がけにより、相談者は安心して話すことができます。
2. 認知の再構築
多くの被害者が「自分が悪い」という誤った認知に陥っています。以下の支援が重要です。
- カスハラは顧客側の問題であり、被害者に責任はないという理解の促進
- 困難な状況での対応努力を具体的に評価
- これまでの接客スキルや経験価値の再認識
3. 具体的な対処方法の整理
実際の職場での対応力向上のため、以下の支援を行います。
企業内リソースの活用
- 相談窓口の利用方法と手順の説明
- 上司や人事部門への報告のタイミングと方法
- 同僚との情報共有と相互支援体制の構築
個人レベルでの対処
- ストレス軽減のためのセルフケア技法
- カスハラ場面での冷静な対応方法
- 感情のコントロール技術
4. キャリアの選択肢提示
カスハラ体験後のキャリア継続に向けて、複数の選択肢を検討することが大切です。
- 現職での継続に向けた環境改善や配置転換の可能性
- より効果的な顧客対応技術の習得
- 接客以外の職種への移行検討
- より良い職場環境での再スタート
組織的取り組みの重要性
カスハラ対策は、個人の努力だけでは限界があります。企業全体での組織的な取り組みが不可欠です。
予防的アプローチ
カスハラを未然に防ぐためには、以下の取り組みが効果的です。
- 顧客への適切な対応方針の明示
- 従業員が安心して相談できる体制の構築
- 管理職の理解促進と適切な対応力の向上
- カスハラ発生時の明確な対応フローの整備
従業員支援の充実
被害を受けた従業員への適切な支援体制も重要です。
相談しやすい環境づくり
従業員が「カスハラを受けた」と声を上げやすい雰囲気を作ることが第一歩です。相談窓口の存在を周知するだけでなく、相談したことで不利益を受けないという安心感を提供することが重要です。匿名での相談も可能にするなど、心理的ハードルを下げる工夫が求められます。
管理職の役割
現場の管理職は、従業員の様子の変化に気づき、声をかけることができる重要な立場にあります。「最近、疲れているように見えるけど大丈夫?」といった日常的な声がけが、早期発見と支援につながります。また、カスハラが発生した際には、従業員を守る姿勢を明確に示すことが信頼関係の構築に不可欠です。
継続的なフォローアップ
カスハラ被害への対応は、一度の面談で終わるものではありません。その後の業務状況や心理状態を継続的に確認し、必要に応じて専門的な知識を持つ人材による相談対応やメンタルヘルスケアとの連携、職場復帰支援など、多面的なサポートを提供することが大切です。
まとめ
カスハラ問題の解決には、法制度の整備だけでなく、組織と個人の協働が不可欠です。
2026年10月の義務化に向けて、企業は体制整備を進める必要がありますが、それ以上に重要なのは、従業員一人ひとりが安心して働ける職場環境を実現することです。カスハラによって優秀な人材を失うリスクを認識し、予防と支援の両面から取り組むことが求められています。
カスハラ問題に適切に対処するためには、被害にあった方に寄り添い、信頼関係を構築しながら問題の本質を捉えることが何より大切です。それぞれの立場から、この課題に向き合っていくことが期待されています。
監修者:CMCA理事長須藤和之
複雑化している社会において、キャリアコンサルタントとして、一人ひとりの生き方としてのキャリアに寄り添い、相談者が自分で納得できる答えにたどり着くまで伴走します。 今のままでいいのか迷う気持ちにも丁寧に向き合い、前向きに歩み出すきっかけづくりを支援しています。